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東京高等裁判所 昭和58年(け)4号 決定

主文

本件異議の申立を棄却する。

理由

本件異議の申立の趣意は、右代理人ら共同作成名義の異議申立書及び意見書に記載されているとおりであるから、これらを引用する。

所論は、要するに、刑訴法一八八条の二第一項本文は、「無罪の判決が確定したときは、国は、当該事件の被告人であつた者に対し、その裁判に要した費用の補償をする。」と規定し、費用補償を請求できるのは「無罪の判決が確定したとき」とされているけれども、費用補償制度の趣旨に照らすと、費用補償の要件を単に無罪の場合のみに厳格に限定して解釈すべきではなく、公平の見地から実質的に無罪と同視できる場合には可能な限り補償を認めるように解するのが相当であり、請求人のように、実体審理を尽したうえで公訴権濫用を理由として公訴棄却の判決がなされて確定した場合には、費用の補償については無罪と同視すべきであるのに、原決定が、前同条の解釈として、費用補償が認められるのは、無罪の判決が確定したときに限るとして、本件費用補償の請求を認めなかつたのは失当である、というのである。

しかしながら、刑訴法一八八条の二第一項本文は、費用補償の要件として、「無罪の判決が確定したとき」と定めており、本件のように公訴棄却の判決が確定したような場合を一切含まないと解釈すべきことは明らかであつて、この点について原裁判所が詳細に説示するところは、当裁判所もすべてこれを相当として是認することができる。右解釈を所論のように失当とすることはできず、本件請求を理由がないとして棄却した原決定は相当である。

なお、申立人鈴木一郎、同錦織淳の申立は、記名代印方式によるものであるから、不適法である。

よつて、刑訴法四二八条三項、四二六条一項前段、後段により本件異議の申立を棄却することとし、主文のとおり決定する。

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